小次郎は独り、厳流島で男がやって来るのを待っていた。
ナルシシストの彼は闘いに臨むいつものつねで、唇に薄く紅を引き、瞼にはシャドー、頬も淡く染めている。
…海上に男の乗る櫓漕ぎの舟が見えてきた。
男は腕にこそ自信があったが、小次郎と違って容姿はまったく垢抜けない。
それは男のコンプレックスにもなっていた。
「待たせたなぁ! 小次郎!!」
「待ちかねたぞ! む、む、む…」
男の負けじと化粧をした異様な容貌に、小次郎は声をあらげた。
「武蔵…濃すぎ…」
(武蔵小杉)

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