濱課長は朝から機嫌が悪かった。
職場では関西訛りの彼の、聞き苦しい胴間声が響く。
「洋子はン」
彼女はコンパクトの鏡を覗いて化粧くずれを直していた。
「洋子はンッ! 例の企画案の返事は来たンかいな!?」
彼女は聞いてはいない。
「洋子はンッ!! 耳あらへンのかぃな? ほんまに…」
濱が荒れているのは、洋子への誘いをあっさりと袖にされたからである。
「今報告書を書いてます!」
「嘘云うンやないでぇ! 化粧、直しとったヤないか!!」
「ったく…」
呆れる洋子だった。
「ここをどこヤ思うとるンや!」
「はぁ?」
「どこヤ思うとると云うてんじゃ!!」
(祐天寺)

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