神奈川にある「逗ッ子り寿司」は、ネタの大きさで有名だ。
ここでは毎月一回、お客様感謝デーとして「60分ひと腹勝負・大食い大会」を開いている。
洋子と濱課長は大食いを競い合っており、この店の常連であった。
今年の両者の戦績は師走の今日まで五勝五敗一分と、この大会で雌雄を決することになっている。
洋子は開店早々にカウンター席に陣取り、濱課長を待ち受けていた。
だが…課長はまだ席に着いていない。
そんな二人のプライベートな戦いのことなどお構いなく、大会開始の太鼓が叩かれた。
「フン! どうやら私の不戦勝ね」
洋子は次々に寿司を頬張り始めた。
彼女は何度もこの大会に出た経験から、そのネタの順序を自分で決めていた。
いつものように、淡白な白身から攻める。
いきなり中トロから入っては、脂が喉にまとわりついて量を食えないからだ。
そのころ濱課長は走っていた。
「まいったでぇ! クレーム処理で時間を取られ過ぎやがな〜」
大阪訛りを吐き捨てる彼の頭に寿司をパクつく洋子の口が浮かぶ。
喘ぎながら時計を見た。
「彼女の戦術ではボチボチ貝に入るころやろか…」
一方、ライバルのいない洋子は悠々と食べられることに、大いに満足気であった。
「フフッ、今年は私がもらったわ」
その刹那。
「洋子!」
逗ッ子り寿司の扉が大きな音を軋ませて開いた。
「何貫目食ろうたンや!!」
(中目黒)

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