洋子は濱課長のしつこい誘いについに屈してしまった。
日曜日にデートさせられることになったのである。
彼女が「セクハラ」などと抗議しようものなら、濱はどうせ「レイオフ」をちらつかせるに決まっている。
濱もついに悪辣な手に出たものだ。
しかもデートの場所は、彼の自宅だと云う。
♪ピンポ〜ン
ついに洋子はやって来てしまった。
「お、来やはったワ」
濱は目尻を下げきって洋子を招じ入れた。
「ささ、むさ苦しいトコやけど、上がりはって」
怪しいこの男に相応しい、地域の入り混じった怪しげな関西弁である。
「今日はナ、洋子はんのために腕に撚りぃかけて料理こさえたンや」
濱は両の腕を絡めあった。
“撚りをかける”を動作で示しているのだ。
いかにも詰まらないギャグである。
「どやっ! 中華やでぇ」
と云ったって、セイロがテーブルに載っているだけだった。
「点心…?」
洋子がようやく口を開いた。
「そや、ほら中華饅やで! まま、喰いなはれ」
恐々、口にした。
「課長、中華饅って…いったい中に何が入っているの?」
「具でっか? 具は言え、まへン」
(外苑前-14.04.13)

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