伴刑事と若手刑事は、古い木造アパートの二階の一室に踏み込んだ。
「チッ、またか!」
大きく舌打ちしたのは伴刑事である。
三年越しのホシをまたしても逃してしまったのだ。
「盗聴マイクか? 密航か? おぃ! 教えてくれ!!」
彼は若手刑事が着ているペラペラのジャケットの胸ぐらを鷲掴みにしてグイグイと押した。
「ば、ばん、けい、じ…グ、グるじぃでしゅ…」
「ん? また汗臭いか?」
「ち、ちがい、ます…く、くび、くび…」
「おぉ、すまんすまん。ついカッとなってしまった」
伴は手を離した。
「伴刑事、キャツはいったいどこへ消えたんでしょう」
「それが簡単に分かったらオレたちの商売は成り立たん」
「警察は要らない、ってことでしょうか」
「みなまで云うな」
その時、若手刑事の携帯電話からQP三分クッキングのテーマ曲が鳴りだした。
「オマエはまだそんな着メロを使っているのか?」
「伴刑事、着メロってご存じなのですか?」
「い、いや、まぁその…早く電話に出ろ」
「電話じゃなくってメールっすよ――」
その時、伴刑事の胸から電子音による『♪闘魂込めて』が流れてきた。
若手刑事は事態を把握できない。
伴刑事は咳払いを一つすると、胸ポケットから携帯電話を取り出した。
「ば、伴刑事〜!」
伴刑事は二つ折りの携帯電話を開いて液晶画面を確認した。
「うむ」
再び電話を折り畳んで胸ポケットにしまった。
「伴刑事ぃ、携帯電話持ったんなら番号教えてくださいよぉ。アドレス教えてくださいよぉ〜」
「ダメだ!」
「そんなぁ〜」
「これはあくまでプライベィトのものだ」
「でも〜」
「それよりオマエのところに届いたメールはボスからぢゃないのか?」
「あ、そうだった!」
「これ、読んでくださいよぉ」
「何々……へっ? 何だって!!」
伴刑事は読み終えると若手の携帯電話を自分の胸ポケットにしまおうとした。
「伴刑事ぃ、それボクの…」
返事をすることさえ忘れている。
文面を読んだ伴刑事の脳裏に、小さな不安が…ょよぎった。

(代々木-14.09.02)

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