「いた〜〜!」
嬉しそうに大きな声を挙げたのは、近ごろ頭髪同様にめっきり陰の薄くなったムネヲちゃんです。
ムネヲちゃん、満面の笑みで顔はクシャクシャです。
しかしいつものように眼だけは笑っていません。
「ム、ムネヲ!!」
マキコちゃんは、まさかの形相、顔全体に不安と脂汗を浮かべ、眼の下にみるみるクマまで浮かべています。
「生きていたのね…」
「ボクは死にましぇん!」
「どこかで聞いたようなセリフ…」
マキコちゃんは、擦り寄るムネヲちゃんを露骨に嫌がっています。
「ちょっと! くっつかないでちょうだい!! 汚らしい」
「そんな〜! 探したでちゅよ〜、マキコちゅぁぁぁぁぁ〜ん」
ヨダレを垂らしたムネヲちゃん、どこを歩き回ったのでしょうか、自慢のミキハウスの背広はボロボロです。
「分かった、分かったから、少し離れてちょうだい」
「だって、またどこか行ってしまうんぢゃないかって」
マキコちゃんの袖をつかんで離しません。
「アタシはどうしたらいぃの…」
「ボクとずっと一緒にいればいいでちゅ」
「相変わらずの赤ちゃん言葉ね、お前は」
「もう! マキコちゃんったら“お前”だなんてよそよそしいンだから」
「ヨソヨソしいって、ぢゃぁ何て呼んだらいぃのよ」
「名前で呼んで〜ン!」
ムネヲちゃん、擦り切れた背広の裾をつまんでイヤイヤをしています。
「暫く会わないうちにますます気持ち悪くなったわね、ムネヲは」
「ムネヲぢゃいや〜ン!」
「だって、名前で呼べっていったでしょう」
「ム〜ネンって呼んで、チュッ」
ム〜ネンはひび割れた唇をニュウッと突き出しました。
それはどうやら、マキコちゃんにキスを求めているようです。

☆★バシッ!☆★

「マキコちゃん! 痛いでちゅよ〜!!」
またもやマキコちゃんの怒りの平手打ちが飛びました。
「おまえ…」
「ム〜ネンでちゅ」
「ちょっとム〜ネン、いい加減にしてよぉ」
「お口つけてくれたっていぃぢゃないでちゅか〜」
「冗談ぢゃないわよ、気持ち悪い」
「ちょっとでいぃでチュから〜」
「や、め、て!」
「いぃ気持ちにしてあげまチュから〜」
「チュウチュウチュウチュウ、ネズミか、おまえは」
「グフフ! ム〜ネンでチュ」
「もう、あっちへ行って!」
ム〜ネンは精一杯唇を伸ばしました。
「ムフフ」
「イヤだってば! あっちへ行って!!」
「ムフムフ、怖がらないで、マキコちゃん。ぢゅるぢゅる〜」
ムネヲちゃんは、舌をベロベロしてマキコちゃんを挑発したつもりです。
「怖いンぢゃないわよ、気持ちが悪いの〜」
「信じてぇ〜、ぢゅるぢゅる…ボ、ボク、キッチュ上手でチュから〜」

(吉祥寺-15.04.25)


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