「ねぇ、ム〜ぅ?」
呼びかけるのはマキコちゃんです。
「それ逆でちゅよ、ボクはムネヲでちゅ」
「違うのぉ、ねぇ、ムゥ〜ぅ?」
彼女は彼の肩に、しなだれかかっています。
「眠いんでちゅか? お布団敷きましょうか? ウフ、ジュルジュル〜」
ニヤケ顔でヨダレをススるムネヲちゃんです。
「ボクと寝るでちゅか?」
「それもいぃんだけどぉ…違うのぉ〜」
「えっっっ、ボクと寝てもいぃでちゅか!!」
ムネヲちゃん、狂喜乱舞しています。
「だからぁ〜、ムゥ〜ぅ、違うのぉ〜」
「よく分かりませんねぇ」
「ムゥ〜ってぇ、ム・ネ・ヲ、のことよぉ」
「ボ、ボクのこと、ムゥ〜って呼んでくれるんでちゅか!!!!」
もう有頂天です。
「そうよぉ〜、ムゥ〜?」
「おぉぉぉぉ〜、ボクは今、猛烈に感動しているでちゅゅゅゅ〜」
「ウフッ」
「マキコちゃん!」
「やめて〜、そんな云い方は」
「えっ?」
「マキコがムゥ〜って呼んでるんだから」
「フムフム…?」
「マァ〜って呼んで」
「マ、マァ〜、でちゅかぁ? ジュルジュル〜」
「そうよ、ムゥ〜」
「マ、マ、マァ〜、ぁ、ぁ、ぁ、アハハハハ」
ムネヲちゃん、とうとう…。
「ねぇ、ムゥ〜? マァ〜が云いたかったのはそんなことじゃないの」
まったくもって、前置きが長いのです。
「なぁにぃ〜? マァ〜、ウフフフ〜」
「おなか空いてなぁぃ〜?」
「う、うん、ちゅこちだけ…」
「ムゥ〜のためにおでんを作ってみたの」
「お、おでん、でちゅか…なんでぇ…?」
とたんに顔色が冴えなくなったムネヲちゃんです。
「どうしたの? ムゥ〜」
「デヘヘ、いやぁ、何でもないでちゅ」
「でも…」
「おでんって、何が入っているでちゅか?」
「それは、大根とぉ」
「だ、大根…ダメ…」
「嫌いだったのぉ〜?」
「い、いぇ、そ、そ…」
「云って云って〜、ムゥ〜の好きなものばっかり入れるからぁ」
「そ、そうでちゅかぁ? ボク…」
「なぁにぃ?」
「具がぃや! マァ〜」

ゴトンゴトン、ゴトンゴトン………バシッ☆☆☆☆☆〜

「痛ッ! 何するんでちゅか!!」
「ムネヲがフケだらけの頭をもたれかけてくるからよ」
「だってぇ、マァ〜」
「何甘ったれた声だしてんのよ、マァ〜って誰のことよ」
「マ、マキコちゃん」
――次は〜、久我山〜、久我山〜――
「さぁムネヲ、降りるわよ」
「今のは……」
「ムネヲ! 荷物ちゃんと持ったの!?」
「……夢?」

(久我山-15.05.21)

三鷹台


富士見が丘