都会の夜。
裏通りに面した雑居ビルの階段を降りると、そこはジャズがけだるく流れる、とあるバー。
スポットで射す照明が、紫煙のくすぶりを際立たせる。
意味ありげな女と、所在なさげな男がカウンターで隣り合っている。
男は目の前の水割りをあおった。
「いよいよ明日は最終回だ…」
「2クールなんて早いものね」
「ヤツに目にモノ見せてくれるぜ」
「貴方の実力の見せ所ね」
「ずっと脇役だったからな」
「でも主役だって貴方が出なければまるで引き立たないんでしょ」
「分かってくれるか」
「当たり前ぢゃない」
「あの野郎! 控えてる時でも正義面しやがるんだ…」
「あら、そうなの?」
「あぁ」
「舞台裏でも弱い立場なのね」
「だから明日、なんだ」
「明日?」
「オレたち悪者がヒーローをコテンパンにヤッつけられるのは最終回しかない」
「でもさぁ、結局は正義が勝つんでしょ」
「そりゃそうだが、ヤツにやられるよりはマシさ」
「もう技は決まったの? ナントカ光線? それともパンチ? 蹴り?」
「おいおぃ、こんな狭いところで手や足を振り回すなよ」
「ゴメ〜ン」
「いいさ、別に謝らなくても」
「……」
「この着ぐるみに入るのも明日で最後か」
「ねぇ、頭だけでいぃからちょっと被ってみてぇ」
「こうか? ガオ〜〜!」
「貴方ってヘンな人ね」
「何だよ、いきなり」
「だって…」
「もったいぶらずに云えよ」
「仕事をしている時は圧倒的な存在感なのに…」
「ガオ〜ッ!」
「ふだんはまるで」
「ガッ!」
「目立たないんだから」
「ォ〜……」
「髭でも蓄えてみたら?」
「ガォ……」
「男のメイクもあるみたいよ?」
「なるほど……オレってやっぱり…」
「どうしたの?」
「フッ…フフ…フフフッ…地味顔、か……」

(富士見が丘-15.05.27)

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