「ぁぁぁぁぁ〜〜〜〜! ボクは一体どうちたらいぃんでちゅか!!」
絶叫するムネヲちゃん、眼に涙まで浮かべています。
(その純度がいかほどのものか、知る由もありません)
「マキコちゃ〜ん、ボクが何をちたと云うんでちゅかぁ?」
二畳の自分の部屋を、動物園にいる檻の中のライオンよろしく独りで行ったり来たり。
わずか二畳間で行ったり来たりできるのか、ですって?
ムネヲちゃんは小男です。
彼の身長と日本人の平均身長とを勘案すると八畳間の広さになり、十分過ぎる広さなのです。
「よしっ! こうなったら表参道の時のように実力行使だ!!」
“表参道の時”とは、ムネヲちゃんがマキコちゃんに猛烈アタックをかけた時のことです。
その執拗さに根負けしたマキコちゃんは、渋々ムネヲと付き合うことを約束してしまったのでした。
思えばそれがマキコちゃんの軽率さでした。
キッパリ断っていればムネヲちゃんもここまで恋の病に苦しめられることもなかったかもしれません。
ムネヲはそんなピュアではないですって?
確かに、そうかもしれません。
「マキコちゃんの家に押しかけるぞ!」
眦(まなじり)を決したムネヲちゃん、何を思ったか艶やかな振袖を身にまとい始めました。

  ◆ ◆ ◆

マキコちゃんの家の前に、振袖を着て何故かシナをつくるムネヲちゃんがいます。
顏はおしろいで真っ白。
首は日焼けしたのか垢汚れなのか、妙なコントラストです。
「どうかぃな? こんなんでえぇかぃな? オホホ」
手の甲を口元にやって怪しく微笑むムネヲちゃんです。
「ほな…出陣どすえ」
腰を振り振り玄関の呼び鈴を押します。
「オホン」
小さく咳払い。
「こンまンば〜」
「誰? 変な挨拶するのは?」
「こンまンば〜」
「だ、誰なの?」
「よしっ!」
ムネヲちゃんは、その返事に何かの手ごたえを感じたようです。
これ以上ないだらしない顏に緩みました。
「こンまンば〜」
「その声はムネヲ?!」
「ウフフ…よしよし、もう一押し…こンまンば〜」
「こんまんば?」
「(通った!)今、いぃ〜? マキコちゅぁぁぁぁぁんんん〜〜〜〜(FO)」

(駒場東大前-15.02.25)

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