@マキコちゃん@天神さん――。

マキコちゃん、今日は一人で梅を愛でにきています。
「どうか今年こそ、アイツから離れられますように」
願をかける顔はどことなく晴れやか。
「アイツがいないと気分がいぃわ」
拝殿に背を向けて参道を歩いて帰りましょ。
出店を眺めて、嬉しそうなマキコちゃんです。

「はっ!?」
彼女の険しい目が三軒先に飛びました。
「な〜んだ、お面屋さんか」
とたんに表情が元に戻りました。
「やっだぁ! アイツそっくり〜」
「お嬢ちゃん、気にいったかぃ?」
「きゃっ!」
お店のおぢちゃんの顔が一瞬、アイツに見えてしまったようです。
「どうかしたの?」
「ううん、何でもな〜ぃ」
(アタシったら疲れているのかしら)
「可愛娘ちゃんにはオマケしちゃうよ〜」
「あら! それってアタシのことぉ?」
(このオヤヂ、調子いぃところはアイツに似てるわ)
「どうだぃ? 一つ」
「ぢゃぁこのヒヒヂヂィ顔、タレていても笑っていない目、ニカッとワザとらしい口元、スダレ頭のお面頂戴な」
「はいよ! 毎度あり!!」
マキコちゃんは買ったお面を指先でつまむようにして持つと、小走りで神社の境内裏手に回りました。

そこでは奉納されたお札やお守りが焼かれています。
「フフフ、アタシの厄を払ってね〜、えぃっ!」
なんと、マキコちゃんは買ったばかりのお面を手裏剣よろしく火の中に投げ入れたのです。
「もう姿を見せるんぢゃないわよ!」
プラスチックでできたお面は、チワチワと縮れて歪み、みるみるうちに溶けてなくなりました。
「これで清々したわ」
拍手を二回叩き終えると、くるりと踵を返して大きな溜め息を一つ。
「はっ? 何この背中に刺さる不快感は……」
たちまち脂汗を額にたっぷり浮かせたマキコちゃんは恐る恐る振り返ってみました。

「ム、ム、ム…」
マキコちゃんは、火の中から明かに感じとったのです。
タレていても笑っていないヤツのねっとりとした視線を。

(神泉-15.02.13)

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