浩「オッカァ、もう歩くの疲れたど」
清「……」
母「分かった分かった、今日はもう仕舞いにすんべ」
浩「何処さ泊まるだ?」

☆母はポケットからしわくちゃなメモ用紙を取り出した。

母「確かこのへんにちげぇねぇんだども…」
浩「ホテルけ?」
清「……」
母「ホテル? ヒロス、そったら外国語、どこで覚えたぁ?」
浩「外国語ぉ? ホテルって、日本語じゃ、ねぇのけぇ?」
清「……」
母「違うのけ?」
浩「違うんでねぇかぁ、なぁ兄貴ぃ」
清「…ホテルは…ホテル語でねぇか?」
母「キヨスは物をよう知っとるのぉ」
浩「ホテル語かぁ…それじゃ、ホテルって国があるだね」
清「…んだ…」
母「じゃが今日はそのホテルってのじゃ、ねぇ」
浩「じゃ、ユースホステスけ?」
清「……」
母「なんじゃ、また外国語使って」
清「…ユースホステス語…」
浩「兄貴ぃ、すっごいのぉ」
母「じゃっど、そのユウヅルホステスでもねぇど」

☆三人は、ゆっくりした足取りで夜の街をさまよい、古ぼけた安宿の前に着いた。

母「おぉ、ここだここだ」
浩「何じゃ、こりゃオラたちの家と変わんねど」
清「……」
母「しっかたねぇど、ほら、へぇったへぇった」
浩「くたびれたから、オラもうすぐ寝てぇがや」――。

☆そして三人が通された部屋は、三畳間だった。

浩「ほれ? オッカァ、ベッドじゃねぇのけ?」
清「……」
母「ベッドって寝床け? そんなもん自分たちで仕度したらえぇ」
浩「チェッ!」
清「……」

☆母は押入れの襖を開け、清と浩は布団を並べ始めた。

浩「シーツはねぇのけ?」
母「何だヒロス、シーツってのは?」
清「…シーツ語だ…」
母「シーツ語け?」
浩「あぁ、あったあった」
母「なぁんだヒロス、シーツってのは、敷布ね…」

(曳舟-15.10.28)


小村井