女は男との別れを惜しんでいた。
「ヰさん、行ってしまうのねぇ…」
「あぁ、しばらくは上方の風でも当たって、芸を磨くとすらぁ」
「そんなの、お江戸だってできるじゃないか」
「分かってねぇな」
「何がサ」
「芸事の頂点は、何たって上方だ」

当時は“入り鉄砲に出女”の時代。
野郎の旅には、比較的寛大だったと云います。
江戸でいっぱしの芸人として人気を得ていたヰ蔵さん、修行の旅と称して上方へ旅立っていきました。

♪ ♪ ♪

「ここが京ってぇところかぁ。
なるほど江戸とはどことなく違うねぇ。
どうでぇ! なんかこう、垢抜けた感じがするじゃねぇか」

ヰ蔵さん、さっそく一軒の見世物小屋の前に来て、迷っています。

「“声色”?…どれ、手始めに、こいつを見物してみっか!」

♪Everybody Love Somebodey Sometime〜

「何だ何だぁ? 京の見せモンは、こんなもんかぁ?
『誰かが誰かを愛してる』だってやがんの。
知ってるよぉ。
デーン・マーチン! やな芸だねぇ。
…でぇち時代が違うじゃねぇか!」

<続>

(でまちやなぎ-15.12.12)

   
  元田中