ヰ蔵さんは、デーン・マーチンの声色芸を見せていたその見世物小屋に、飛び入りで上がることを思いつきました。
「やぃ!」
さながら道場破り同然の振る舞いです。
「やぃやぃやぃやぃ! のやぃ!! 京は芸事の本場だってぇから、こちとらはるばる江戸から出て来てやったんだ」
客席がざわめきます。
『なんやな、あの田舎モンは?』
『何でっしゃろなぁ』
『「江戸から来てやった」なんて云うてはりまっせ』
「そこのフヤケた喋りかたしてるサンピン!」
「ワテのことだっか?」
「おう、そこらへんの蒟蒻野郎どもよ!」
騒ぎを聞きつけて、さすがに座長が飛び出して来ました。
「どないしはりましたン?」
「どないもこないも、あるもんかぃ!」
「は、おまはんは!」
座長さん、何かを思い出したようです。
「ん? そのいかり肩に見覚えがある…テメェは賭ヱ門!」
「よう覚えてくらはったやないかぁ。懐かしおますなぁ」
「何してるんでぇ、こんなところで」
「そりゃアンさん、ワテは芸人やでぇ。座長やでぇ。芸を見せてまんがな」
「ヘッ、テメェが座長ねぇ」
「な、なんや、文句ありまんのか?」
「こりゃ笑わせやがる。おっと、芸のことじゃぁねぇぜ」
勢いづくヰ蔵さんです。
「芸ってのはなぁ、ホントの芸ってぇのはなぁ、今、見せてやらぁ」
「アンさん、芸なんか…」
「な、何だとぉ! 芸、なんかぁ?」
「そや、持っとったんか?」
<続>
(もとたなか-16.1.7)
出町柳
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茶山