そのとき、またもや新たな怪しい中国人が現れた。

「与力ノダンサン、ソイツハアッシノ手下デンネン。
今回ダケハ見逃シテクレヘンヤロカ」
「師匠〜! 助カッタワァ」

「何やてぇ? その声は仰でんな!」
「シェ〜シェ〜」
「こいつが、あんさんの子分や云うンかぁ?」
「サイデンネン」
「仕方あらへんな。
今回は大目に見てやるさかい。
おまはん、自分の子分くらいしっかり教育せにゃあかんでぇ。
おぅ! ほな皆のもの、帰るで〜」
「はいなっ!!」
「ほな、さいならっ!」

奉行所の連中は、怪しい関西弁とともに去っていきました。
残ったのは芝居小屋の面々と、仰さんとその子分の周です。

「オヤッ?
ソコイラハルノハ??
オ〜、オシサシブリデンネェ、シェンシェ〜!」

どうやらヰ蔵さんと知り合いのようです。

「だ、誰だ?
その中国訛りの関西弁でオイラのことを『先生』なんて呼ぶのは」

仰さんは、大きく手を振りました。

「ヤァ〜!
スェ〜〜〜ンシエェェェ〜シャ〜〜〜ン!! 
クォッチクォッチ〜!!!」

「おぉ!(やっとここまで来られたかぁ…)仰座ってぇからひょっとして…とは思ったが。
違ぇねぇ、やっぱりおめぇさんだったか。
久しぶりだなぁ」
「シェンシェ〜シャン!」

二人は旧交を懐かしみ、ガシッと抱き合いました。

「おぉ、その先生に“サン”だなんて二重に敬称を付けるナァ、失礼だぜ。
それに拗音の遣い方もなってないゾ――」
「シェンシェイシャン、相変ラズ言葉ノ遣イ方ニウルサイ、アルネェ」
「当たり前だぁな!」

仰さん、素に戻って体を離しました。

「シェンシェイシャン、何デ京ニ居テマンネン?」
オイラが京に来たのはよぉ、話せば長いことながら…って、思えばこの旅も長かったなぁ…」
「シェンシェイシャン、積モル噺ハ、アチラデユックリ聞キマヒョ、ササ、アッチェラへ、アッチェラへ」
「オイラの噺を聞いてくれるかぃ?」
「聞キマヒョ、聞キマヒョ」
「次の企画もよぉ」
「練リマヒョ、練リマヒョ」

   『 了 』

(やせひえいざんぐち-16.8.17)

三宅八幡