『ムネヲオフィス』と掲げる部屋の電話機が鳴った。
内線電話である。

「誰だ!」
「――」
「あぁ、ムネヲだ! オレしかいないことは分かっているだろう!!
ムダなことは訊くな!!!」
「――」
「面会!? 陳情か?」
「――」
「オンナ? また愛人希望か…」
「――」
「いや、何でもない。つないでくれ」
「――」


「カネ、名誉、権力、すべて手に入れたこのオレにかしずくオンナは数知れない。
困ったことだ。フフッ」

再び呼び出し音が鳴った。

「――」
「オ、オマエは」
「――」
「あぁ、オレも忙しいんでな」
「――」
「そうオレを困らせるなよ」
「――」
「別れていぃ? って、ずいぶんアッサリしているな」
「――」
「カネか。いくら欲しい」
「――」

ムネヲは受話器を左肩に挟み、財布を取り出した。

「――」
「云ってくれんと分からんだろう(欲の皮と…整形で皺を伸ばしただけあってツラの皮も突っ張ったオンナだ)」
「――」
「あのこと…『話してもよいか』って?」
「――」
「なに!『よくお考えになってから返事が欲しい』だと?」
「――」

ムネヲは激しく受話器を置いた。
そして再びすぐに、受話器をワシづかみにした。

「ワシだ!」

バタバタと羽ばたいて見せるが、受話器の向こうの相手に伝わる訳がない。

「消せ!」
「――」
「今電話をかけてきたオンナをすぐに消せ!」
「――」
「愛人? そうだ。だからどうした」
「――」
「構わん、オンナの一人や二人」
「――」
「愛人なんて向こうから寄ってくる。いぃから、消せ! たかが三号だ」

♪ ♪ ♪

「ちょっ、ちょっとムネヲ〜、さっきから受話器上げたり下げたり、何独りでトリップしてるのよぉ」
「マキコちゃん、ボ、ボクの夢はでちゅね、愛人をたくさん持つことなんでチュ」
「何よ、いきなり」
「愛人でチュ、あ・い・じ・ん! 外人じゃありまチェんからね!!」
「だけどさぁ、愛人って本妻が居てこそなンじゃないのぉ?」
「本妻? 何を云ってるんですかっ!
本妻はマキコちゃん、貴女に決まってるじゃないですかっ!!
ボクの人生の設計図には、もうそう決められているのでチュ〜」

バシッ☆彡☆彡☆彡

(京成高砂-18.01.29)

  柴又