母「あんれ? ヒロスゥ? キヨスはどスた?」
浩「オラ知らねぇど」
母「あんら、せっかく部屋ぁ探してきた、ってのによぉ」
浩「部屋ってオッカァ、引っ越すのケ?」
母「いつまでも旅館暮らしじゃぁ、疲れっど?」
浩「うん!」
母「ンだども、キヨスがいねぇと相談できねっぺなぁ」

田舎モン母子は、東京へ来てからというもの、ずっと安宿暮らしを続けていた。
収入は母親がキヨスクでパートとして働く賃金だけである。
生活は楽ではなさそうだ。

浩「早く引っ越してぇど、オラ」
母「ンだども、まンだそげなデケェ家には住めンけどナ、勘弁してけれ」
浩「贅沢は云わねぇど。壁が薄くて隣りのヘンな声が聴こえるこの部屋に比べたら…」
母「ヘンな声? あぁ、ノラ猫か?」
浩「あれって猫なの?」
母「ンだ、猫だ」
浩「だったらオラたちは烏だなヤ」
母「なしてダ?」
浩「オッカァ、オッカァって云うでねぇか」
母「ヒロスは勉強家で真面目なキヨスと違って、たま〜に面白いこと云うでなぁ」
浩「あ、そのキヨス兄ちゃん、何処サ行ったべなぁ」
母「ンだなぁ…」

その時、押入れから物音がした。

母「あんれまぁ、オスーレに誰か居っぺ?」
浩「怖いよぉ、オッカァ」
母「開けてみっど」
浩「大丈夫ぅ?」

母親は、勢いよく襖を開けた。

母「おンやまぁ、キヨスったら」
浩「兄ちゃん! またオスーレにおったンかぁ」
母「キヨスったら、こげん狭いとこで何しとるだ」
清「猫の声を訳しとる」
母「猫の声ぇ?」
清「オスーレから、よっく聴こえっど」
母「はぁ〜、キヨスはよっく調べモンが好きだべなぁ」
浩「兄ちゃんのいつもの研究かぁ、また〜」

(京急蒲田-18.02.07)


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