母「注文、エェだか?」
店「申し訳ないっ!」
母「へっ?」
店「蕎麦ぁ、切らしちまって、もう店ぇ閉めるところなンでさぁ」
母「あンれまぁ、そいつぁツイてねぇだ」
浩「オッカァ、売り切れってことケ?」
母「ンだ」
清「スッかたなかンべぇ」
母「ンだな。ほかを探すべぇ」
浩「かき揚げ蕎麦、喰いたかったズラ」
清「コロッケ蕎麦、喰ってみたかったズラ」
浩「なんだキヨス兄ちゃん、コロッケ蕎麦をまだ食ったことなかったのケ」
清「気になった喰いモンは、味をありゃこりゃ訊くよりも、まず喰ってみろ、ってぇ主義だ、オラは」
母「よぉ、キヨスはいゃに饒舌だっぺヨォ」
清「オラだって主張する時は、きっぱり云うだかンね」
浩「オッカァ、そんなことはイィから、腹減ったズラ」
母「スかたネェ。ちと歩くベ」
清「……」
浩「アテはあるだか?」
母「そこはこのスろい東京だベ。いっくらでもあるッぺよ」
清「ソース」
浩「キヨス兄ちゃんが頷いたっぺナ」
清「ソでね」
浩「ソでね? ソースでね?」
清「ソース!」
浩「ほら、やっぱりソースって頷いとるギャ」
母「そうだべ。ホスの数ほどあるのが東京だんべぇ」
清「ソース!!」
浩「キヨス兄ちゃんが、また頷いた」
清「ソでね。ソースの匂いがスッぺよぉ」
浩「ソースの匂いは、そりゃ酸っぺなぁ」
母「ン。たスかに酸っぺ」
清「ソンでね、っちゅうに。あそこだベ」
浩「わぁ、オッカァ、縁日だ」
母「ンだども、店仕舞いしてるとこでねぇか?」
浩「手前の、あの焼きそばの店は、い〜っぱい焼け残ってるド」
母「ヒロスったら、ンな火事場の跡みてぇなこと云って」
清「ソース!」
浩「とにかく、行ってみっぺぇ」
母「ンだな。ダメで元っこだぁ」
浩「おぢちゃん、焼きそば!」
男「悪ぃなぁ、もう店仕舞いなンだ」
浩「だってぇ、こんなにたくさんあッぺよぉ」
男「こりゃ売れ残っちまって……そンじゃぁ、悪りぃからよぉ、半値だ、喰うヶ?」

   『了』

(羽田空港-24.04.03)

 天空橋