最近、めっきりナリを潜めているマキコちゃんは、いったい何処へいってしまったのでしょう。
彼女に対してのストーカー…否、彼女への一方通行の熱愛を貫く、あのムネヲちゃんも。
「マッキー!」
と、噂をすればハゲが差す…またもや否、影が差す。
来た!!
遥かから届く皺枯れ声は、どうやらムネヲちゃんのようです。
ムネヲちゃんとたちまち分かるほどに、声の主が全速力でスッ飛んできました。
「マッキ〜。逢いたかったでチューッ」
いきなりハゲる……またまた否、ハグるムネヲちゃんです。
「ちょっとムネヲぉ、いきなり何するのよ」
「ガハハのハ。挨拶がわりでチュ」
「それに、なによ、マッキーって。ムネヲは以前、アタシをマーって呼んでたンじゃなかったの?」
「人の名なんて、時代とともに変わっていくものサ」
しばらくぶりに、マキコちゃんの張り手が炸裂しました。
張り手の二三発で、易々とヘコたれるムネヲちゃんではありません。
「でもムネヲ――」
「ムーネンって呼んで。ウフッ」
「ムーじゃなかったの?」
「だからぁ、人の愛称なんて――」
「自分で自分の呼び名を愛称と云うか」
歳を重ねることは、否定することばかりではありません。
流れてきた年月は、二人の人間性をマイルドに練り上げたようです。
「ところでムネヲ――」
「だからぁ、ム・ゥ・ネ・ン。でチュッ」
ムネヲちゃん、決めポーズのつもりなのか、年季の入ったカサついた唇を突き出します。
そのたびに、マキコちゃんの眉間の皺が増えてゆきます。
「だから、ここに何しに来たのよ」
彼女は今日、銀座の映画館前に来ていました。
そこに飄然と現れたのが、ムネヲちゃんだったのです。
「聞きたいでチュか?」
「別に聞きたくはないけど」
「そんなこと云わないでぇ。聞いて聞いて聞いてー」
「相変わらず困ったヤツだな。何しに、来・た・の?」
「ムフフのフ。ムーさぁ、試写会に来たの」
「何よ。こんどはムーに戻るのね」
(武蔵境-24.04.20)
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新小金井