眼が合ったマキコちゃんは、裸を見られていることなどすっかり飛んでしまいました。
屋敷に忍び込んだムネヲちゃんに怒りの矛先をぶつけます。
「おぃ、ムネヲっ! そこで何やってんの!!」
「何やってんの、って……」
何が起きたかまだ把握できない茫然自失のムネヲちゃんは、言い訳すら思いつきません。
マキコちゃんは、なおも畳み掛けます。
「そこで待ってらっしゃい」
ムネヲちゃんは、憤怒の表情のマキコちゃんを恐れて、震えはじめました。
あれほど蜜月だった関係は、ここに脆くも崩れ去ったのです。
突然現れた淳子笑いの男のために。
「クックック」
ナヲキくんは思惑通りに運べた首尾に満足そうです。
マキコちゃんがどうやらこちらにやってきそうなので、見つかってはならじ、と悠々と立ち去っていきました。
ムネヲちゃんは、思いを寄せていたマキコちゃんからの謂われない仕打ちが脳裏をチラつきます。
ナヲキくんを呼び止める気力もなさそうです。
「クックック」
「あうあうあう……」
マキコ邸の庭に、奇妙な輪唱が響きました。
と、淳子笑いが邸内から消えたその刹那、ムネヲちゃんの前に現れたのはマキコちゃんです。
マキコちゃんの手には、およそ似つかわしくない、風呂場からの光をキラキラ反射する金属がぶら下がっています。
ムネヲちゃんは、我に帰りました。
「マ、マ、マキコちゃん。それって…」
「ムネヲ、警察に突き出してやるワ」
鬼の形相と化したマキコちゃんに対して、蛇に睨まれた蛙のごとく硬直したムネヲちゃんです。
眼はマキコちゃんの右手に見える金属に釘付けです。
「警察に、って……何のこと? いつ? 手に持っているのは何? 今日? 手錠?」
「参ったか」
「そ、そ、そ……」
「ムネヲよ、もうアタシのことは諦めなさい」
「えっ……」
(競艇場前-24.05.11)
白糸台
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是政