さてヰ蔵さん、江戸っ子としての矜持は人一倍です。
黙って引き下がる男ではありません。

「おぅ! 柳橋のヰ蔵さんをナメてもらっちゃぁ、泣きを見るぜ」
「ホホホ、そうでおましたなぁ」
「おましたなぁ?
ケッ!
どうもそのナマクラな言葉ってぇのは好きになれねぇや」
「ワテもその角張った言葉はよう馴染めまへん」
「てやんでぃ!
べら棒めぃ!!
これが江戸の粋ってもんよ」
「それを云わはるんなら、ワテらの言葉が京の雅ですわいな」
「ミヤビかワラビか知らねぇがなぁ――」
「もう、江戸の言葉はガサツで堪りまへんわ」
「何だと、このサンピン!」

賭ヱ門さんは、ウンザリした顔です。
他の芸人さんも、辟易しています。

「座長!」
「なんや」
「話が先に進みません!」
「そやなぁ、近ごろ行き詰まっちまってサ…」
「座長、何ですか?
その怪しい江戸弁は…」

芸人が間髪を入れず、ツッこむ。
ヰ蔵も黙ってない。

「ちょっと待ったぁ!
語尾にサを付けりゃぁ江戸弁たぁ笑わせるぜ」
「あ、あかんの?
ここで江戸弁つこうたらウケる思うたんやけど…」
「お?
おぅ、そ、そりゃ、何て云うか…ちゃ、チャヤマっせ〜」
「ププッ、それを云うならちゃいまっせ、やないかぃ」
「そうでもせにゃ、噺が終わらんのどすえ」

<続>

(ちゃやま-16.1.22)

 元田中
  
  
  一乗寺